勿論俺には霊なんて見えないが、俺が頭の中で作成した
数年前に死んだこの学校の女子生徒の陽奈菊(ヒナギク)ちゃん(享年14)と
会話しているつもりだった。
今思えば周りから見たその俺は相当キモかったんだと思う。
それでも俺は自分に霊能力があると勝手に信じ、周りからも羨望の眼差しを
受けてると思いこんで霊達とのコミュニケーションを続けた。
学校の帰りに道端に花が添えてあろうものなら俺は悲しそうな顔で花を見つめ、
「痛かったろう、もう大丈夫だよ」
と言ってそこで死んだのが小学5年生の女の子だと勝手に妄想して
小さい子の頭を撫でるふりをした。
そしてちょうどその時に花を取り替えに来た遺族にここで亡くなったのは
67歳の爺さんだと聞きかされ、初めて挫折しそうになった。
でも俺は止めなかった。そしてそんな俺に転機が訪れる。
俺が密かに想いを寄せていたクラスメートのF美が休み時間に突然俺に話しかけてきたのだ。
彼女の話では、最近、放課後の誰もいないはずの音楽室からピアノの音がするようになったそうだ。
そこで霊能力のある俺に原因は何なのか探って欲しいとのこと。
俺は好きな娘に話しかけられたことより、俺に霊能力があると信じてもらえてたことが
何よりも嬉しく、速攻でOKした。
そして夜11時、待ち合わせ場所の校門前にはF美のほかにもF美の女友達が数人いた。
俺は目を瞑って夜の校舎に手をかざし、「こ、これは…!?み、見えるぞ…!闇に蠢く悪霊が…!!」
と適当なことを言った。女子の一人が「ぶっ」と吹いたが俺は気にしない。
そして学校に侵入。そんなこんなで問題の音楽室の前まで来た。
中に入ると古びたグランドピアノが真っ先に目に入る。俺は意を決してそのピアノに近づく。
そして、次の瞬間「うわっ!!」とピアノの陰からスクリームの仮面を被った人間が出てきた。
それはどう考えても人間だったが、そのときの俺は心臓が口から出そうなくらいビビリまくって
「ぎぇえええぇぇぇぇ!!!」
と悪霊みたいな声を出して脱兎の如く音楽室から飛び出し、
その後も半狂乱した状態で奇声を発しながら闇へと消えていったそうだ。
次の日にそれはクラスメートが俺に仕掛けたただのドッキリだと知ったが、
その日以来、俺のあだ名は「悪霊」になった。